もししがないフリーライターがプロの事業戦略家に出会ったら第六章

事業戦略家との出会い

 そんな中で、一際私のツイッターのフォロワーさんの中でも気になる存在がいました。私がツイッター運用を始めてまもない頃、いろんな人が仲良くしてくださった中でも、特にいつもリプをくれて親しく絡んでくれる人がいたのです。

 Aさんというその女性は当時、ツイッターの肩書きが何やらお偉いさんの空気をぷんぷん漂わせた人で、どう考えても雲の上の存在な人だなという印象を持っていました。何でこんな人が私と絡んでくれるんだろうと、ずっと不思議で仕方がありませんでした。私の活動にも逐一反応してくださって、常に応援のコメントをくれて、絡んでみると本当にマメで気さくで、くだらないことも全力でふざけてくれる、とても良い方でした。

 そんなAさんの気さくさに惚れ込み、彼女といつかお会いしていろいろお話できたら嬉しいなと思うようになったんです。思い立ったがすぐ連絡!が当時私の中でマイブームだったのもあり、いつものおふざけリプライに交えて、あなたに会いたいですという旨を彼女に伝えてみました。

きっと忙しい人だから会ってはくれないだろうけど、ダメもとでも言ってみようと思ったわけです。どんな返事が来るか楽しみにしていましたが、彼女からの返信は「会いたいけど会えない」という曖昧な返事でした。

 やはりそうだよな。だめもととはいえ、一番会いたいと思っていた人だったのもあって、少し寂しさもありましたが、忙しい中こうやって絡んでいただけてるだけでありがたいやと思い、諦めようとしました。

 しかし、彼女はこう続けてくれました。「自分は過去にあったトラウマが原因で、人に会うのが怖くて今は誰とも会っていないんだ。でも、こんな自分と仲良くしてくれたはるかさんになら会ってみたいけど、一人だとやはり心細いから、大学時代の友人を一緒に連れて行っても良い?私の良き理解者で、なんでも相談できる頼りになる人なんだ。」

 彼女が信頼している人なら間違いないだろうと思い、私は彼女に会えるならどんな方が一緒だろうと関係ないやという考えのもと、「もちろんだよ」と返事をしました。この出会いが、後の私の人生を大きく変えることになるなんて、この時は全く予想もしていませんでした。

 まだ残暑というには早いような、うだる暑さが続いていた9月。私はツイッターで知り合った一人の女性Aさんとそのご友人にお会いすべく、上京してから一度しか訪れたことがなかった上野駅という巨大迷路を一人彷徨っていました。

 私がご友人と3人でランチをしようと彼女に提案したところ、日程と時間を合わせてくれて、すぐさま駅近のお店を予約してくれました。指定された場所と時間に何とかたどり着いた私は、少しの緊張と胸の高鳴りを感じながらお店に足を踏み入れました。

 店員さん案内され着い席には、すでに男性が一人座っていました。この方がAさんがお話ししていたご友人かなと思いながら、私はその男性に挨拶をしました。「初めまして、黒田 周兵(くろだ しゅうべい)と申します。」そう名乗ったその男性は、私が今まで会ったことのない、物言えない存在感を放っている人でした。

 見た目こそ華奢な印象ではありましたが、どっしりと構えた落ち着きのある風格で、その中にどこか知性や品性といった雰囲気を身にまとっているような空気感を漂わせていました。Aさんからの事前情報がほとんどなく、私もAさんに会うのがメインだったのもあって、彼との接し方をどうすれば良いのか迷っていました。

 人見知りを克服したとは言え、全くの初対面の方とお話しするのはやはりまだ慣れないなという、少しの心細さを感じながら、気を遣わせないようにと悟られないようにしていました。

 黒田さんも私の様子を伺いながら出方を伺っているようでした。しかし、どこか不思議でつかみどころのない見た目とは裏腹に、とても気さくにお話ししてくれたのを覚えています。落ち着いたトーンでどこか含みを持たせた話し方をされる人だなと思いながら、少しの間たわいもない話を交えたおかげで、緊張が少し解けた気がしました。

 かくいうメインであるAさんは、今朝方まで仕事をしていたらしく、もしかしたらまだ寝ていて遅れるかもしれないと連絡をもらっているということを、黒田さんから聞き、やっぱり忙しい人なんだなと思いながら、彼女の到着を待つことにしました。

 何分待っても一向に姿を見せないAさん。流石の私もだんだん心配になってきていたのですが、黒田さんは彼女のことをよく分かっているらしく「おそらく遅くまで仕事していたから疲れて寝てしまっているのかもしれない。もしくははるかさんに会うのが土壇場で怖くなってしまったのかもしれないですね。すごく会いたがっていたのは事実なので、彼女を責めないであげてください。来ない可能性もあるから先にお昼頂いてしまいましょうか。」

 そう言って、色々なトッピングが楽しめる石焼ごはんがずらりと並んだメニューを広げて見せてくれました。いまいちどういう関係性なのかは理解しきれていなかったものの、お互いを理解しあっているからこそ、動じずにいられるんだろうな、と勝手に解釈しお二人の関係性が少しうらやましくなりましたね。

 その日は結局、Aさんが姿をあらわすことはありませんでした。でもその間、黒田さんと色々お話しする時間を頂いてお二人の馴れ初めや、対人恐怖症の原因を作った過去のお話をしてくださいました。お互いが辛い時はいつも支え合ってきたという言葉を聞いた時、お二人は強い絆で結ばれているんだなということをひしひしと感じました。お話の合間合間から垣間見える物憂げながらも、どこか柔らかさをまとった言葉の紡ぎ方から、黒田さんの素顔を少し垣間見ることができた気がしました。

 その後お話ししていく中で、私がどういう人物なのかをお話しする場面があったのですが、正直、私は今何者なのかをはっきり伝えられていたか曖昧なんですよね。確かリラクゼーションで働いているというのはお伝えしたと思うのですが、自分が発した言葉というのは意外にも覚えていないものなんですよね。

 ただ何となくツイッターでビジネスを始めたということをお伝えして、その後ふわっとしているということを口走った気がしなくも無いですが。その言葉で黒田さんは何か悟ったのかもしれません。この人は何かやりたいけど頑張る方向性が違っているな、将来の人生設計がまだ見えていないんだなと。これはあくまで私の妄想にすぎませんが、きっと黒田さんは私のことを何も分からないなりに、悩みの本質を見極めつつあったんじゃないかなと。

 メニューの隅に「注文してから炊き上げるので20分お時間いただきます」という文言が添えられていたのを思い出しながらそろそろ20分経ったかなと思った頃合いで、石焼ご飯がゆっくりと運ばれてきたのを横目に見ていると、店員さんが丁寧に目の前に御膳を置いて去って行きました。

 「いただきましょうか。」そう言って黒田さんは石焼ご飯をスプーンでしっかりと混ぜたあと、まだグツグツと音を立てている熱々のご飯を少しすくい、火傷に気をつけながらゆっくりと食べ始めました。私もアボカドとチーズが乗った変わり種石焼ご飯を、おこげのついた石の底からぐっとすくい上げ、ふうふうと冷ましながら口に運びました。

 特に広がりそうもない話題を交えながらしばらくご飯に集中していましたが、食事も終盤に差し掛かった頃、黒田さんは私に言いました。「一流の人脈だったら何人か繋げられるから、何かあったら相談してください。Aさんと仲良くしてくれているお礼でもあるので。」そんな言葉添えとともに、自ら連絡先の交換を提案してくれたのです。

 それから付け加えるかのように「僕からもAさんに連絡入れますが、きっと今日来れなかったことすごく悔やんでいると思うので、はるかさんからも連絡入れてあげてください。」という、最後まで彼女のことを気にかけていた紳士的な黒田さんとお別れした後、Aさんに「ご友人と合わせてくれてありがとうという、また今度落ち着いたら会いたいな」という旨を伝えて、その日は家路に着きました。

 翌日、Aさんから「やっぱり土壇場で会うのが怖くなってしまって、せっかく時間作ってくれたのに本当にごめんなさい。」と返信がありました。もちろん彼女を責める気なんて一切なかった私は、「頑張って会おうとしてくれたことが嬉しかったから私はそれで十分で、次会えるようになるまで楽しみに待ってる。」と伝えました。

 数日後、黒田さんから「今度、知り合いの退職祝いを都内のタワーマンションを借りて開くんだけど、一流の人が集まるパーティーだから、そこで本物の人たちにいろいろ話聞いてみるといいよ。」と、突然の予期せぬお誘いをいただきました。見ず知らずの小娘がそんな格式高そうなパーティーに行って良いものかと悩んだのですが、せっかく黒田さんがお声がけしてくださったし、ちょうど予定が空いていたこともあり、私は二つ返事でそのお誘いを承諾しました。

 その後も黒田さんから時折、一流の方々が集う食事会のお誘いをいただいたり、私の人生の相談事を聞いてくださったりと、とても親身に接してくださいました。私の実家のことや私自身の仕事の進捗、人生設計などの話も嫌な顔せず相談に乗ってくださり、その度に的確、いや、的確すぎるほどにアドバイスをくださいました。

 時には、私がこれからはパソコンが使えないと時代に取り残されるだろうから、ブログやwebデザイン、プログラミングか何かを勉強して手に職をつけたいという、ただ食いっぱぐれなさそうで稼げそうだから始めてみたいです、という下心全開の相談に対して「それらはもう飽和状態でその道のプロにならないといけないし、そのプロたちに追いつくにはもう手遅れだから正直稼げないよ。」と私の煩雑な夢と希望を一刀両断してくれたりもしました。

はるか
出会ってまだ2、3回目の人にここまでのことを言える人ってなかなか少ないんじゃないでしょうか。他人の人生だし本人がやりたいって言ってるんだから好きになせてあげよう、というのが一般的な模範解答だと思っていたので、そんなことを言ってくれる人がいるのかと内心驚いていたのは秘密です。最初の頃はなんだか分からない人、少し言葉悪いですが素性が全く見え無さすぎてちょっと怪しい人という印象でしたから。

営業したことがある人ならピンと来るかもしれませんが、自分の商品をお客様のご提案する時って、いきなりオファーするのは素人がやること。まずはお客様との信頼関係を勝ち取るためにアイスブレイクを入れて緊張を取るところから始めるんだということを聞いたことがあるかもしれません。

たまたまそのノウハウを知っていた私は、黒田さんから何か高額な商品かサービスを売られるのではないかとすら思っていたのです。だって黒田さんがわざわざ時間作って私と会うメリットなんて何一つないと思っていたからです。

でも、何回かお会いしていく中でそういった話は一切出てきませんでしたし、何より本当に親身になって私の将来を心配してくださっていたので、Aさんんお受け売りとはいえ本心で私と向き合ってくださっているのかと思い始め、勝手に私は、黒田さんのことを「この人なら信じてもいいのでは?」と思うようになりました。

 第七章黒田周兵という人物へ続く…